<思い出の小林秀雄 野々上慶一>
小林秀雄から頼まれて昭和8年に「文學界」を引き受けたのが野々上慶一です。小林秀雄、青山二郎、河上徹太郎、との交遊はひとかたならぬものがあったとおもいます。この親交の詳細を「思い出の小林秀雄」として書いています(小林秀雄だけではなく青山二郎や大岡昇平なども書かれていました)。
「…小林はいってゐた、「友達は与へるものぢやない、偸むものだ、」と。我々は丁度、酔っ払ひが翌朝自分のポケットをさぐつて見るといつの間にか昨夜の飲み相手のライターやネクタイを発見して驚くやうに、お互ひに偸み合った。
この時代の若い文士というさむらい達の友情は、一言でいえば、誠実さを貫くことだったように思う。文壇づき合いは不遠慮だったが、誠実さに欠けることを最も恥とした。その誠実さを追求することが、即ち文学である、としたようだ。
……青山二郎、小林秀雄、河上徹太郎たちの交遊は、とかく友情にまとわりつく感傷を極度に排したべ夕べタしたところのないものだったように思う。それは実にすさまじいものであった。あまりにも経験が強烈であったためか、河上は、何度か当時のことを回想しては筆にしている…」。
今回は野々上慶一の「思い出の小林秀雄」の本だけではなく、「小林秀雄と青山二郎」に関する数冊の本を参考にさせていただきました。河上徹太郎の「厳島閑談」、吉田健一の「饗宴」、沢村貞子の「私の浅草」などです。順次、紹介していきます。
★左上の写真は野々上慶一の「思い出の小林秀雄」、新潮社版です。特に面白いのは「小林さんとの飲み食い五十年」です。当時、二人が通っていた飲み屋がよく分かります。