<鼠のマンション>
先ずは鼠の住まいですが、前作(「風の歌を聴け」)では鼠の実家が登場しています。”鼠は三階建ての家に住んでおり、屋上には温室までついている。”と書かれています。『1973年のピンボール』では、鼠は自宅から出て父親が所有していたマンションが住まいとなります。前作は1970年8月が舞台ですから、3年が経過しています。
「…鼠は大学に入った年に家を出て、父親が一時書斎がありに使っていたマンションの一室に移った。両親も反対はしなかった。ゆくゆくは息子に与えるつもりで買ったわけだし、
当分一人暮しで苦労してみるのも悪くはあるまいと思ったわけだ。
もっともそれは誰がどう眺めまわしても苦労といった類いのものではなかった。メロンが野菜に見えないのと同じことだ。部屋は実にゆったりと設計された2DKで、エアコンと電話、17インチのカラー・テレビ、シャワー付きのバス、トライアンフの収まった地下の駐車場、おまけに日光浴には理想的な洒落たベラソダまでが付いていた。南東の隅にある最上階の窓からは街と海が一望に見下ろせる。両側の窓を開け放つと、豊かな樹々の香りと野鳥のさえずりを風が運んだ。…」。
大森一樹監督で映画化された「風の歌を聴け」 でも鼠のマンションが登場しています。「1973年のピンボール」が書かれた1980年頃は”エアコンと電話、17インチのカラー・テレビ、シャワー付きのバス”が独身男性から見て夢だったとおもいます。
★左上の写真は大森一樹監督で映画化された「風の歌を聴け」で登場した鼠のマンションです。このマンションは1980年前後に建てられ、阪神大震災で全損し、その後の1997年に建て直されています。「1973年のピンボール」が書かれた1979年には既にありました。建物も当時と変わっていないようで、村上春樹がイメージしたマンションのようです。