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最終更新日:2020年5月26日


●ジェイズ・バーを歩く
  初版2006年8月12日 <V02L02>

  二版2019年5月19日 <V01L02>

 2019年5月19日(YouTube版村上春樹の世界 No.10)
 「《村上春樹の世界》ジェイズ・バーを歩く」をYouTube化しましたので見て頂ければとおもいます。
 上記をクリックするとダイレクトでYouTubeに飛びます。

 また暫く村上春樹関連を更新していませんでしたので、今回は初期の三部作「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」で登場する「ジェイズ・バー」を歩いてみました。芦屋の町も地震でかなり変わってしまっていましたので、あくまでも推定で探してみました。


二代目のジェイズ・バー(推定)>
 村上春樹の初期三部作でしばしば登場するジェイズ・バーを訪ねてみました。村上春樹の作品ですから当然架空のお店ですが、実在のお店をモデルにして書かれているようです。また、三部作の最後の「羊をめぐる冒険」ではジェイズ・バーが三代に渡って移り変わっていることが書かれています。「…僕が昔ジェイから聞きだした話によると彼は一九五四年に基地の仕事をやめてその近くに小さなバーを開いた。これが初代のジェイズ・バーである。バーは結構繁盛した。客の大半は空軍の将校クラスで、雰囲気も悪くなかった。店が落ちついた頃にジェイは結婚したが、五年後に相手は死んだ。死因についてはジェイは何も言わなかった。一九六三年、ベトナムでの戦争が激しくなってきた頃にジェイはその店を売って、遠く離れた僕の「街」にやってきた。そして二代めのジェイズ・バーを開いた。それが僕がジェイについて知っていることのすべてだった。 …… 僕が十八の歳に街を離れると鼠がそのあとを継いでビールを飲みつづけた。一九七三年に鼠が街を出てしまうと、そのあとを継ぐものは誰もいなかった。そしてその半年後には道路拡張のために店も移転することになった。そのようにして二代めのジェイズ・バーをめぐる我々の伝説は終った。三代めの店は…」。ジェイズ・バーが二代目で全てが終わったように書かれています。村上春樹が書く芦屋の町の話は「羊をめぐる冒険」で全てが終わったようです。

左上の写真が推定二代目のジェイズ・バーです。上記にも書きましたが芦屋の町は平成7年(1995)の地震ですっかり変わってしまっていました。その中で二代目のジェイズ・バーを探すのは苦労しましたが、三部作に書かれているジェイズ・バーについての記述を参照して推定してみました。

シャッターを押し上げ階段を下りた>
 「1973年のピンボール」にはジェイズ・バーの場所についての記述がありました。「…十分ばかりぼんやりと煙草を吸ってからパジャマを脱ぎ、シャツの上にウィンド・ブレーカーを着こんで地下の駐車場に下りる。十二時をまわった街に人影は殆んどなかった。街灯だけが黒々とした舗道を照らしている。ジェイズ・バーのシャッターも既に下りていたが、鼠は半分ばかりそれを押し上げてくぐり、階段を下りた。ジェイは洗ったタオルを一ダースほど椅子の背中に干しおわり、カウンターに一人で座って煙草を吸っているところだった。…」。書かれている通り、ジェイズ・バーはシャッターのあるビルの地下にあることが分かります。

右の写真の左側の階段を下に降りると左上一番最初の写真になります。実際は階段を降りてからシャッターを開けることになるので、「1973年のピンボール」に書かれていることとは反対になります。少し残念です。

三代目のジェイズ・バー(推定)>
 三代目のジェイズ・バーの場所についてはかなり有名なので皆様よくご存じだとおもいます。「羊をめぐる冒険」では、「…三代めの店は昔のビルから五百メートルほど離れた川のほとりにあった。さして大きくはないがエレベーターまでついた新しい四階建てのビルの三階である。エレベーターに乗ってジェイズ・バーに行くというのもどうも妙なものだ。カウンターの椅子から街の夜景が見渡せるというのも妙だった。 …… 僕は黙ってビールを飲んだ。天井のスピーカーからボズ・スキャッグズの新しいヒットソングが流れていた。ジュークボックスはどこかに消えていた。店の中の客は殆んどが大学生のカップルで、彼らはこざっぱりした服を着て水割りかカクテルを一口ずつ行儀良く飲んでいた。酔いつぶれそうな女の子もいなければ、ぴりっとした週末の喧騒もなかった。きっとみんな家に帰ったらパジャマに着替えて、きちんと歯を磨いて寝るのだろう。 …… 「時代が変ったんだよ」と僕は言った。「時代が変れば、いろんなことも変る。でも結局はそれでいいんだよ。みんな入れ替っていくんだ。文句は言えない」 ジェイは何も言わなかった。…」、と書いていますが、「風の歌を聴け」でも最後にジェイズ・バーが変わったと書かれていました。「…僕は29歳になり、鼠は30歳になった。ちょっとした歳だ。「ジェイズ・バー」は道路拡張の際に改築され、すっかり小綺麗な店になってしまった。とはいってもジェイはあい変わらず毎日バケツ一杯の芋をむいているし、常連客も昔の方が良かったねとブツブツ文句を言いながらもビールを飲み続けている。…」。此方は場所が変わったとは書かれておらず、建物が改築されたと書かれています。時代が変わって昔のジェイズ・バーの雰囲気が無くなってしまったようです。

左上の写真が三代目ジェイズ・バーがあったビルのようです(このビルは昭和49年(1974)に建てられておりその前はモータープールでした)。芦屋川の業平橋西詰にある芦屋サウザンドビルです。四階建てなのですが、三階建てにしか見えません。このビルの三階の奥、東側にGRASSというバーがあったのですが、このお店が三代目ジェイズ・バーのモデルのようです。この芦屋サウザンドビルのときに2代目の経営者に変っています。GRASSは芦屋サウザンドビルから二号線を西に200m程離れた芦屋市前田町交差点傍の花屋の2Fの移転します。そして再度 芦屋駅から線路沿い南側を西に300m程歩いたところに移転しています。ピザが美味しいお店なのですが、アパッチカレーもなかなかです。

二代目ジェイズ・バーのビル(推定)>
 最後に二代目ジェイズ・バーのあったビルを探してみます。「…三代めの店は昔のビルから五百メートルほど離れた川のほとりにあった。…… 昔のジェイズ・バーは国道わきの古ぼけたビルの地下にある小さな湿っぽい店だった。夏の夜にはエアコンの風が細かい霧になるほどだった。長く飲んでいるとシャツまで湿った。」。と「羊をめぐる冒険」には書かれています。三代目は芦屋川業平橋西詰の芦屋サウザンドビルです。ですからこのビルから500mの円の所の傍に二代目ジェイズ・バーがあるはずです。国道とは国道二号線のことだとおもわれます。これらの事柄とビルの地下とシャッターを頼りに探してみました。芦屋市内は先程も書きましたが地震ですっかり変わってしまっています。最初に国道二号線脇を探しましたが、地下にバーのあるビルは見つけられませんでした。そこで500mの円の所にあるビルを探したところ、写真の芦屋グリーンハイツが条件に非常に近いビルとなりました。このビルは昭和45年(1970)頃に建てられたようです(詳細は分かりません)。

右上の写真の右側から二軒目のビルが芦屋グリーンハイツです(阪神芦屋駅から東に355m程です)。先程のGRASS(草)とも色が同じですね(こじつけかな)。このビルの地下にはカフェーバーや喫茶店が3〜4軒入っています。地震にも倒れずに残っていました。芦屋サウザンドビルからは直線で513m、道なりで698mでした。

当然ですが一代目のジェイズ・バーは分かりません。

村上春樹の芦屋地図



【参考文献】
・風の歌を聴け:村上春樹、講談社文庫
・1973年のピンボール:村上春樹、講談社文庫
・羊をめぐる冒険(上、下):村上春樹、講談社文庫
・世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上、下):村上春樹、新潮文庫
・ダンス・ダンス・ダンス:村上春樹、講談社文庫
・ノルウェイの森(上、下):村上春樹、講談社文庫
・さらば国分寺書店のオババ:椎名誠、新潮文庫
・村上朝日堂:村上春樹、新潮文庫
・村上朝日堂の逆襲:村上春樹、新潮文庫
・村上朝日堂はいかにして鍛えられたか:村上春樹、新潮文庫
・村上朝日堂ジャーナル うずまき猫のみつけかた:村上春樹、新潮文庫
・村上朝日堂 はいほー!:村上春樹、新潮文庫
・辺境・近境:村上春樹、新潮文庫
・夢のサーフシティー(CD−ROM版):村上春樹、朝日新聞
・スメルジャコフ対織田信長家臣団(CD−ROM版):村上春樹、朝日新聞
・村上春樹スタディーズ(01−05):栗坪良樹、拓植光彦、若草書房
・イエローページ 村上春樹:加藤典洋、荒地出版
・イアン・ブマルの日本探訪:イアン・ブルマ(石井信平訳)、TBSブリタニカ
・村上春樹の世界(東京偏1968−1997):ゼスト
・村上春樹を歩く:浦澄彬、彩流社
・村上春樹と日本の「記憶」:井上義夫、新潮社
・象が平原に還った日:久居つばき、新潮社
・ねじまき鳥の探し方:久居つばき、太田出版
・ノンフィクションと華麗な虚偽:久居つばき、マガジンハウス
・アフターダーク:村上春樹、講談社
・本の雑誌(昭和58年2月号):本の雑誌社
・ピーターとペーターの狭間で:青山南、ちくま文庫
・国文学 中山健次と村上春樹 都市と反都市:学燈社
・誰もヒロインの名前を知らない:畑中佳樹、筑摩書房
・フォークナー短編集:新潮文庫
・不死鳥の剣:河出文庫



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