<「羊をめぐる冒険」(文庫本)>
村上春樹シリーズの初期三部作の最後になる「羊をめぐる冒険」を歩きます(今週は上編を中心として歩きます)。このころの村上春樹は千駄ヶ谷のピーターキャットを止め、習志野の一軒家で小説を書き続けていました。この本が書かれたのが昭和57年、「風の歌を聴け」から三年経っていました。ようやく小説家として一人立ちしてきたころだとおもいます。この頃の雑誌の取材記事が一番面白いです。
「 第一章 1970/11/25 水曜の午後のピクニック
新聞で偶然彼女の死を知った友人が電話で僕にそれを教書くれた。彼は電話口で朝刊の一段記事をゆっくりと読み上げた。平凡な記事だ。大学を出たばかりの駆けだしの記者が練習のために書かされたような文章だった。何月何日、どこかの街角で、誰かの運転するトラックが誰かを轢いた。誰かは業務上過失致死の疑いで取り調べ中。雑誌の扉に載っている短かい詩のようにも聞こえる。「葬式はどこでやるんだろう?」と僕は訊ねてみた。「さあ、わからないな」と彼は言った。「だいいち、あの子に家なんてあったのかな?」 もちろん彼女にも家はあった。…」。「羊をめぐる冒険」の書き出しです。1970年11月から始まり、1978年7月から冬にかけての話になります。「風の歌を聴け」が1970年の8月8日から26日までの物語で、「1973年のピンボール」はタイトル通り、1969年から1973年の物語となっています(殆ど1973年の話ですが)。それぞれの小説は新しいタイトルで書かれていますが、共通点を持ち経過を説明しながら書かれています。文学論を書くつもりはないのですが共通点は”鼠”ですね。鼠から読み解いていくと面白いです。
★左上の写真が講談社版文庫の「羊をめぐる冒険」です。私の文庫本は47版ですが現在はどのくらいの版数になっているのでしょうか。よく売れているようです。