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最終更新日:2006年4月22日


●八百屋お七『好色五人女』から  初版2000年7月22日 <V01L01>

 今週も怪談話の第三話としたかったのですが、適当なお題がなくて、井原西鶴の「好色五人女」「八百屋お七」を取り上げてみました。

 八百屋お七」については、『好色五人女』(井原西鶴)、『八百屋お七』(紀海音)、『天和笑委集』 『近世江都著聞集』にも載っていますが、諸説がいろいろあり事実関係はよく分からないようです。しかしながらここでは井原西鶴の「好色五人女」の中の「八百屋お七」について取り上げてみることにします。
 天和2年(1682)12月28日深夜、駒込大円寺(本郷丸山町とか色々の説があります)から出火した火事は、本郷、日本橋を焼き尽くし、さらには隅田川を越えて本所、深川にも達し、ようやく夜に入って鎮火しています。この時に本郷追分の八百屋、八兵衛の一家は、普段から付き合いがあった駒込の吉祥寺に避難をしています。この八兵衛一家のひとり娘がお七でした。「好色五人女」によると「 こゝに本郷のほとりに、八百屋八兵衛という商人があつた。昔は素性も賤しくない人で、娘がひとりあつて、名はお七といった。年も盛りの十六、花にたとえれば上野の櫻の盛り、月にたとえれげ隅田川にうつるさやけき影、このような美女が世にあるものであろうか。隅田川で都鳥を歌つた美男の業平に、時代ちがいで見せられねのが口惜しい」といわれるくらい美しい人だったようです。(左の写真は、最初に出火したといわれている大円寺の中にある「ほうろく地蔵」です。享保4年(1719)にお七供養のために建てられています。)

 火事で避難した駒込吉祥寺の寺小姓「吉三郎」のとげを抜いてやったことから親しくなったお七と吉三郎は、ほどなく人目を忍ぶ仲となる。「好色五人女」では『のちには二人とも涙をこぽし、なかなからちがあかなかつたが、また雨のあがり際に神鳴がひどく鳴つたので、「これはほんにこわい」と、吉三郎にしがみついているうちに、おのずから情が通い、「なんて冷たい手足だろう」と、肌へ引きよせると、お七は恨めしそうに、「あなたもわたしを憎からずお思いになればこそ、あのような手紙を下さいましたのに、このように身を冷やしたのは、誰の仕業でしよう」と、首筋にしがみついた。いつとなくわりない仲となり、互いに濡れた抽を交わして離れることなく、命のかぎり愛しあおうと誓いあつた。』とあり、昔も今も変わらない恋愛表現と関心したりしています。
やがて焼け跡には家が建ち、ふたりは離ればなれのまま、逢うこともままならず時は過ぎていくわけです。再び火事が起これば以前と同じように吉三郎に会えるとお七は自宅に火を放つ訳です。(右の写真は駒込の吉祥寺です、目赤不動の南谷寺からすこし歩いたところにあります)

<駒込の吉祥寺>

 訪ねてみると驚きますが、駒込付近で広大な寺域をもつのが、吉祥寺です。開基は太田道灌が江戸城を築城したとき桔梗門外の井戸から「吉祥増上」の文字を刻した鋼印が発見されたのがきっかけです。道灌がこれを瑞祥として和田倉門に吉祥庵を建て、徳川家康の江戸開府にあたり、神田駿河台に移つりましたが、明暦の大火で現在地に移転しています。なおこの時、門前町の人々が移住して新田を開き、吉祥寺新田と称したのが現在の武蔵野市吉祥寺です。

 お七は翌天和3年3月2日(1683)の夜,新しく建てた自分の家に火を放っています。この火はすぐに消し止められましたが,江戸時代は放火は重大犯罪のため、お七はその月の29日,鈴ヶ森の刑場で火刑に処せられています。
これも「好色五人女」によると「今日は神田の崩れ橋で晒し者になつたかと思うと、明日はまた四谷、芝、浅草、日本橋と引き廻され、それをこぞつて見物する人々は、若く美しいお七の命を惜まねものとてはな−仰った。それ忙つけても、人はかりそめにも悪事を働くべきではない。天道は決してお許しなされめのである。・・・  ・・ 品川のほとりの鈴が森で、ためしすくない火刑の刑となつた。」とあります。(左の写真が鈴が森刑場跡です)

 右の写真は駒込の円乗寺のお七のお墓です。

八千代市の長妙寺にもお七のお墓があります。ふびんに思った実の母が遺骨を密かにもらいうけ、同寺に埋葬したようです。
(場所) 八千代市 (京成)京成大和田駅 バス5分 大和田小学校下車 

『好色五人女』
愛に忠実に生きたため痛ましい最後をとげた五人の女。お夏清十郎、樽屋おせん、おさん茂右衛門、八百屋お七、おまん源五兵衛は、いずれも平凡な家庭の娘であり人妻でしたが不義密通が極刑に処せられた時代の悲劇です。これは日本女性史の上でも貴重な資料であるし,好色物を得意とした西鶴が当時の制度や道徳と正面から対決した意義深い作品です.(岩波文庫紹介より)

駒込付近地図


【参考文献】
・好色五人女:角川ソフィア文庫
・東京のお寺神社謎とき散歩:岸乃青柳 廣済堂出版
・歴史と旅 江戸東京歴史ウォーク(3/10 増刊):秋田書店

【交通のご案内】
・大円寺:都営三田線「白山駅」下車 徒歩10分位
・吉祥寺:営団南北線「本駒込駅」下車 徒歩10分位
・円乗寺:都営三田線「白山駅」下車 徒歩5分位

【見学について】
・大円寺:東京都文京区向丘1-11-3
・吉祥寺:東京都文京区本駒込3-19-17
・円乗寺:東京都文京区白山1-34-6

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