
「細雪」は地理的には阪神間を書いているように言われていますが、京都や東京もかなりのページを割いて書いています。なかでも特に谷崎潤一郎は平安神宮 の「神苑」の桜が好きなようで、かなり精細に書かれていました。「細雪」を読みながら「神苑」を回るのも一興です。
「…あの、神門を這入って大極殿を正面に見、西の廻廓から神苑に第一歩を踏み入れた所にある数株の紅枝垂、── 海外にまでその美を謳われていると云う名木の桜が、今年はどんな風であろうか、もうおそくはないであろうかと気を揉みながら、毎年廻廓の門をくぐる迄はあやしく胸をときめかすのであるが、今年も同じような思いで門をくぐった彼女達は、忽ち夕空にひろがっている紅の雲を仰ぎ見ると、皆が一様に、
「あー」
と、感歎の声を放った。この一瞬こそ、二日間の行事の頂点であり、この一瞬の喜びこそ、去年の春が暮れて以来一年に亘って待ちつづけていたものなのである。。…」。
平安神宮の「神苑」は過去にも何度か訪問して写真も撮影しているのですが、今年も桜が一番綺麗な時期を狙って訪ねました。実は4月5日(土)の昨日だったのですが、土曜日で人出がものすごかったです。人の切れ間が無く写真を撮るのに苦労しました(後ろ姿で写るようにしています)。
★左上の写真は上記に書かれている「西の廻廓から神苑に第一歩を踏み入れた所」の少し先の写真です。「神苑」の桜は本当に可憐で素敵です。彼女と一緒ならもっと良かったのですが、単身で残念でした。
★右の写真は下記に書かれている「蒼竜池の臥竜橋」です。石の並びがすばらしいです。
「…貞之助は、三人の姉妹や娘を先に歩かして、あとからライカを持って追いながら、白虎池の菖蒲の生えた汀を行くところ、蒼竜池の臥竜橋の石の上を、水面に影を落して渡るところ、栖鳳池の西側の小松山から通路へ枝をひろげている一際見事な花の下に並んだところ、など、いつも写す所では必ず写して行くのであったが、此処でも彼女たちの一行は毎年いろいろな見知らぬ人に姿を撮られるのが例で、ていねいな人は態ゝその旨を申し入れて許可を求め、無躾な人は無断で隙をうかがってシャッターを切った。彼女たちは、前の年には何処でどんなことをしたかをよく覚えていて、ごくつまらない些細なことでも、その場所へ来ると思い出してはその通りにした。たとえば栖鳳池の東の茶屋で茶を飲んだり、楼閣の橋の欄干から緋鯉に麸を投げてやったりなど。…」。
上記に書かれている場面の写真を一挙掲載しておきます。人が多すぎて良い場面での撮影ができていませんがご容赦ください。
・白虎池の菖蒲の生えた汀 (菖蒲は池の渕にあります)
・蒼竜池の臥竜橋の石の上を、水面に影を落して渡るところ
・栖鳳池の西側の小松山から通路へ枝をひろげている一際見事な花の下
・栖鳳池の東の茶屋 (場所が分からず蒼竜池の茶屋と推定)
・楼閣の橋の欄干
上記の場所は平安神宮のホームページに「神苑」の地図が掲載されていますので参照してください 。