<「京羽二重」 谷崎潤一郎全集、中央公論新社>
谷崎潤一郎全集が中央公論新社から今現在、発刊中です。17巻発刊され、残りは9巻です。少々お値段が高いのですが、現在購入し続けています。本棚の飾りにならなければ良いのですが!
「谷崎潤一郎全集 24巻」より「京羽二重」の書き出しです。
「 京羽二重
をけら火やしらみそめたる東山…
…熱海を立つ前に毎日新聞大阪本社の山口廣一君から電話があって、京都へ来たら是非大阪へ立ち寄って戴きたい、今道頓堀の中座で渋谷天外の一座が台所太平記を出してをり、藤山寛美の初役の女形の「はつ」が盛んに見物を笑はしてゐるから、あれを必ず見てやって下さい、なほこの機会にあなたをお招きして何処かで一席設けたいと本社の人々が云ってゐるから、御迷惑ながらその際はお越しを願ひたい、場所は大阪でなくてもいゝ、京都でも結構ですとの話であった。そんな事情で、先づ中座の観劇を済ませてから一旦都入りをして北白川の家に落ち着き、新聞社の招宴には日を改めて応じることにした。では会場は何処にしますか、大阪にしますか京都にしますかと、重ねて山口君からの電話で、私は即座に京都を希望した。京都は何処? と、山口君が三つ四つ料亭の名を挙げた中で、私は又躊躇するところなく「奥山」を希望した。…」。
この頃の谷崎潤一郎は熱海市伊豆山鳴沢に住み、京都へは春、秋の季節の良いときに訪ね、左京区北白川仕伏町の渡辺家を宿としていたようです。
【京羽二重(きょうはぶたえ)】
京都の西陣で織った羽二重。良質で美しいことで知られており、平織りと呼ばれる経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に交差させる織り方で織られた織物の一種。絹を用いた場合は光絹(こうきぬ)とも呼ばれる。通常の平織りが緯糸と同じ太さの経糸1本で織るのに対し、羽二重は経糸を細い2本にして織るため、やわらかく軽く光沢のある布となる。
織機の筬の一羽に経糸を2本通すことからこの名がある。白く風合いがとてもよいことから、和服の裏地として最高級であり、礼装にも用いられる。日本を代表する絹織物であり『絹のよさは羽二重に始まり羽二重に終わる』といわれる。
★左上の写真が中央公論新社版の「谷崎潤一郎全集 24巻」で、現在発刊中です。「京羽二重」は昭和38年(1963)8月発行の「新潮」8月号に掲載されています。