<石の橋> 石の橋は「生々洞」から東に400m、中津川に架かる橋です。現在は横に盛岡バイパスの東大橋が架かっており昔の面影はありません。
立原道造の「盛岡ノート」からです。
「… 僕は 南昌山を見るために 中津川に出て行った
三日月ぐらいののこりの月はかかっていた 東の空は赤くなって 雲が美しかった 僕は 石の橋の上に 立っていた 南昌山の高いあたりは 赤く日に てらされていた 岩手山には 薔薇色の雲が かかっていた 岩手山をよく見るために 川の向岸にわたった そこは ポプラがもう葉をふるいはじめた並木だった岩手山にも日があたっていた ヒメカミ山は黒い紫で 右の肩だけスミレ色に 日にてらされていた そのうち 愛宕下に日がさした それが だんだん下におりて来てポプラに日がさした それからついに川原にまで来た…
… §
僕はきょう 僕がかえるなんておもわない
いま お風呂に行って そのかえり シャボン箱とぬれタオルを持ったまま けさとおなじ橋の上に立っている 風が気持よい空は南の地平に近いあたりにすこしの雲がむらかっているばかりで こんなにいいお天気があることなんか 今まで一度も知らなかったくらいだ 空は深い青 陽はキラキラとあたたかい 川原には 黒や斑の牛が七頭牛追いに連れられて歩いている 水はきらめいてながれている 何もがこんなに親切にいい気持だ…」
ここでも南昌山が出てきます。私が見ても南昌山は分らなかったです。
岩手山は写真を掲載しておきます。
お風呂はこの石の橋の袂にあったようです。
「立原道造全集 第五巻 書簡集」を参照します。
「五五八
十月十九日〔水〕 入江雄太郎宛〔盛岡發〕〈山〉
けふはたいへんによい天気です。二、三日塞い日がつづいたあとでいまは全く澄んだ青い空は美しい日があたたかく親切にさしてゐて、てんたう蟲や足長蜂があそんでゐます。川原のある河のほとりに、正午ごろ僕はあそびに行つてゐました。……
… ここの川原はミルクプラントの建物があります。ごくうすい緑灰色の壁に緑色の瓦棒葺の屋根のあるその建物は、ポプラに包まれて美しい建物です。だれの設計か知らないし、なかにはいつてしらべたりするほど熱心な僕ではないから、外からいつもぼんやり見てゐます。つつましい好ましい感じの建物で、野心も何もないそれだけのよさです。窓は灰色がかつだクリーム色の木製サッシュで、大きな窓と、小さな窓とが、バランスして南面についてゐます。僕がいつも見るのはその面なのです、これがこの市でおそらくは唯一の、僕たちの意味で、新らしい建築です。…」
石の橋を渡った先にミルクプラントがあったようです。現在は
小岩井中津川マンションが建っています。小岩井とあるので小岩井農場関連とおもいます。ミルクプラントもその関連ではないでしょうか。
★写真は現在の「文化橋」です。昔は石の橋の呼び名だったのかもしれません。右側は盛岡バイパスの東大橋です。