<盛岡ノート>
まず最初に紹介する本は立原道造自身が書いた「盛岡ノート」です。再刊版を入手する事ができました。小さい本ですが、立原道造の気持ちが良く分かります。
立原道造 「盛岡ノート」の一節です。
「… 空がやうやく晴れて来る 光が白い雲のあひだで 澄みわたって来る ここの縁側にも陽がさしはじめる風が強い 木がざはめき 雲は早くながれ 日が照ったりかげつたり あわただしくする
僕はさつきから スコットランドの童話をよんでゐる 三時ごろに 町に出かける約束をした しかし そんな約束は いつしたのだらうか 何かしら いろいろなものが幼年の日に見た風物のやうに とはくに行ってしまって しかもそれが はっきりと見える 僕の身体がちひさくなったやうな気もする それから いろいろな知り合ひになった人たちがみな とほくに小さくなって行って 橙々色の夕やけのなかで 古風な町を措いた絵のなかへ 消えてしまった その絵は 中洲の あの 美しい町を描いてゐるのだらうか そしてあれは とうにどこかへ沿えてしまった 僕の ふるさとではないだらうか
いま僕は 幼兄がひとりばっちであるやうにひとりばっちだ 僕のよむ スコットランドのメエルへンのなかで 僕は あたらしい僕になって 生れる あの夕やけのしてゐる古風な瓦をおいたふるさとの町へ!
この世で めぐりあった人たちのところに ふたたびかへれるか どうか とうにわからない ここは ちがった世界だ〔§〕そして 僕の年齢は どうなったのだらうか あのうづたかい僕の昨日は? おまへのところへもふたたび 僕はかへれるのだらうか
だが 眼にうつる風景 それさへも 奇妙にあたらしく あざやかに とほい夢のなかで 見たもののやうに そのなかに 僕のからだがあるものではないやうに いま僕のまへに立ってゐるはじめて 出てゆくここの町 それが 僕にまた どんな 変容を加へるだらうか…」
ヨーロッパへのあこがれがあるようです。スコットランドが日本の東北、盛岡と重なっていたのでしょうか、気候的には似通っていたのではないでしょうか!
★上記は平成十九年一月盛岡ノート刊行委員会発行の立原道造
「盛岡ノート」です。初版は、昭和五十三年五月かわとく壱番館が発行しています。今回の本は佐藤実氏の「立原道造文学地図」等も付いています。ただ、元の原稿(絵とか)を見たい人は下記の本がいいとおもいます。