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最終更新日:2006年8月26日


●芋坂(羽二重団子)と夏目漱石 初版2000年5月20日 1版
 今週は谷中(日暮里)から根岸へ向かう芋坂付近の散歩道をご紹介します。

 『「行きましょう。上野にしますか。芋坂へ行って団子を食いましょうか。先生あすこの団子を食った事がありますか。奥さん一返行って食って御覧。柔らかくて安いです。酒も飲ませます」と例によって秩序のない駄弁を揮ってるうちに主人はもう帽子を被って沓脱へ下りる。 吾輩は又少々休養を要する。主人と多々良君が上野公園でどんな真似をして、芋坂で団子を幾皿食ったかその辺の逸事は探偵の必要もなし、又尾行する勇気もないからずっと略してその間休養せんければならん。』夏目漱石「我輩は猫である」の一説です。「我が輩は猫である」に登場するのですから昔から芋坂と羽二重団子がいかに有名だったか分かると思います。日暮里駅を鴬谷側で下りて、谷中の天王寺を回って安立院から再び線路沿いへ出ると、丁度芋坂です。今はJRの京浜東北線/高崎/ 東北線で切れてしまっていますが、昔は谷中から根岸へむかう長い坂で、付近で芋を作っていたので芋坂という名前が着いたそうです。

現在は左の写真のように芋坂跨線橋があります。写真の右側に見えるのが跨線橋です。左側に下りていく道が昔の芋坂で、線路の手前で切れてしまっています。跨線橋を渡って向こう側にいくとまた昔の芋坂に繋がります。その先の右手角に羽二重団子があります。

<羽二重団子>
 この羽二重団子は創業文政2年(1819年)のだんご屋さんで、夏目漱石正岡子規、司馬遼太郎といった文豪たちの作品の中にたびたび登場します。初代の庄五郎が芋坂の「藤の木茶屋」で、王子街道を従来した人々に団子を売ったのが始まりだそうで、この団子が「きめ細かく羽二重のようだ」と評判を呼んでこの名前がついたそうです。この羽二重団子の横に丁度芋坂があり、慶応4年5月15日、上野の戦争で敗れた彰義隊数百人が日光へ逃げるため、この芋坂を駆け下りてきています。その際に数名が羽二重団子の店に侵入、刀、槍を縁の下に投げ込み、野良着に変装したそうです。

名物の羽二重団子は、平べったい4粒のだんごで、こしあんと生醤油の2種類(各200円)。得に、甘さ控えめのこしあんは、キメが細かいのに粉っぽくなくて絶品、二つ食べると丁度よい感じになります。琴の音が流れる店内で、中庭を眺めながら食べることもでき、団子2本とお茶のセットは400円です(右の写真参照)。芋坂を谷中から下りてきて、雰囲気を楽しみながらゆっくりと食べることをお勧めします。店内には、古くから使用されていた道具類や、文学者との関係も展示しています。

<正岡子規:道灌山より>
『ここに石橋ありて、芋坂団子の店あり。繁昌いつに変はらず。店の中には十人ばかり、腰かけて喰て居り。店の外には、女二人佇みて、団子の出来るのを待つ。根岸にことの鳴らぬ日はありとも、この店に人の待たぬ時はあらじ、戯れに歌をつくる。』
『根岸名物芋坂団子売り切れ申し候の笹の雪』


<泉鏡花:松の葉より>
『「団子が貰いたいね、餡のばかり、」と、根岸の芋坂の団子屋の・・・ ・・つらりと店つきの長い、広い平屋が名代の団子屋』

・羽二重団子:東京都荒川区東日暮里5-54-3  03-3891-2924


日暮里駅周辺地図


【参考文献】
・我輩は猫である:新潮文庫
・谷中スケッチブック:森まゆみ 筑摩書房

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