
小林秀雄は終戦後直ぐの昭和23年6月、結婚後14年間過ごした扇ヶ谷四〇三番地から雪の下三九番地に引っ越します。今までの住まいは亀ヶ谷坂切通しへ抜ける道の途中で、谷間の住まいでしたが、引っ越した先の住まいは雪の下二丁目の高台の上にあり、鎌倉市内が一望に見渡たせる場所でした。
「…昭和二十三年に、兄は八幡宮の裏山の上の広い平家を買って引越した。山の上だから、かなりの登りで骨が折れたが、それだけに高級地ともいえるいい環境の家であった。ぐるりは山にかこまれて、南側だけが開けていて、見晴しはすばらしい。山々の自然は、美しい四季の変化を惜しげもなくみせてくれた。春は線の山のあちこちにふんわりと白い山桜が咲き、秋は黄、茶、深紅、色とりどりに紅葉が錦を織りなしてくれる。遠くの空のはてには海がみえ、晴れた日には大島がみえる。夜は御神火(三原山の噴火の火)がみえる時もあるそうだ。…」。
鎌倉の一等地ですから、其れなりの価格であったとおもわれます。ただ、昭和23年ですから、まだ戦後の混乱期であり、上手に購入できたのではないかとおもわれます。
★写真の坂道を上がった右側が雪の下三九番地です(個人のお宅のため直接の写真は控えさせていただきました)。崖の上が住まいになっています。玄関は当時のままでしたので、家屋も保存されているのではないかとおもわれます。