<「文圃堂こぼれ話」 野々上慶一>
昭和初期に小林秀雄が中心になって発行していたのが「文學界」です。この「文學界」を最初に出版(昭和8年10月)したのは、文化公論社で、創刊号では、小説を室生犀星、井伏鱒二、楢崎勤、阪本越郎、舟橋聖一、評論は西脇順三郎と谷川徹三、随筆は堀辰雄、永井龍男、岡田三郎、山下三郎、阿部知二が書いています。錚々たるメンバーです。しかし、この「文學界」はおもっていたほど売れず、五号で休刊になります。この後の昭和9年6月に「文學界」を引き続いだのが野々上慶一が経営する「文圃堂」でした。
「昭和五年、ある事情で大学を横に出た私は、自活する必要に迫られたが、今日では想像できぬほどの不景気で簡単に職などなく、思案の末、本屋になった。文圃堂書店と名付け、本郷帝大(東大)前に売場面積三坪余のミニ店舗をもった。
親戚に岩波書店に関係して、仕事をしていた大学の教授がいて、岩波茂雄さんに保証人になってもらった。堤さんという古くからいるエライ番頭さんに、たいへんお世話になったことを忘れない。
なにしろ慢性的不況時代で、学生はほとんど余計な本など買わぬ。そこで出版でもやって一発当ててやろう、と山ッ気を起した。。…」。
大学を途中退学した野々上慶一が自ら名乗り出て「文學界」を引き継いだのではなく、小林秀雄に無理やり頼まれ、やむを得ず始めたのものです。上記に書かれていますが、”山っ気があった”のも真実だとおもいます。
★左上の写真は野々上慶一が書いた「文圃堂こぼれ話」です。「文學界」を出版していた頃のことがなかなか面白く書かれています。ただ、野々上慶一自身が書いていますので、その分、割り引いて読まなければならないところもあるようです。