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最終更新日:2006年2月12日

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●「時代屋の女房」の大井町を巡る 初版2002年6月22日 <V02L03>
 今週は久しぶりに映画に戻って、村松友視の直木賞受賞作品である「時代屋の女房」を巡って見たいと思います。 「時代屋の女房」は1983年に松竹で監督:森崎東、脚本:荒井晴彦で映画化され、主演は渡瀬恒彦、夏目雅子で、あまりに有名なので皆様よくご存じだと思います。夏目雅子の「真弓」がとても印象的でした。

jidaiya-ooimachi10w.jpg<時代屋の女房>
  村松友視の「時代屋の女房」は1982年上期の第87回直木賞を受賞しています。前年には、つかこうへいの「蒲田行進曲」が受賞しており、なにか80年代の時代を感じる本です。ストーリー自体は東京都品川区の大井町駅に近い大井三つ又交差点にある古道具屋が舞台になっています。映画は「時代屋」という骨董店を営む渡瀬恒彦が演じる「安さん」と、夏目雅子が演じる「時代屋の女房、真弓」が、俗に言う「涙と笑いのストーリー」を演じており、それに加えて津川雅彦が女たらしの喫茶店マスターをやっていて、なかなかいい演技をしています(この三人が絡み合っていて、なかなかいいですね!)。映像も少し都心から離れた、寂れつつある大井町の町並みをよく表現していると思います。

左の写真が 角川書店「時代屋の女房」の初版本です。私の持っている本なのですが、直木賞受賞作品なので出版冊数が多くて、値段はあまり高くありません。

<村松友視(むらまつ ともみ)>
 昭和15年(1940)4月、東京生まれ。祖父は「残菊物語」の松村梢風、高校まで静岡県清水市で過ごす。慶應義塾大学文学部卒業後、中央公論社に入社したが昭和58年(1981)に退社。デビュー作の「私、プロレスの味方です」等のプロレス関連がベストセラーに。昭和59年に発表された「時代屋の女房」で第87回直木賞を受賞する。コメンティターとしてテレビにもよく出て人気もあるようです。著作としては第25回泉鏡花賞の「鎌倉のおばさん」「夢の始末書」「アブサン物語」「上海ララバイ」などがあります。


《大井町駅から西大井駅付近地図》



jidaiya-ooimachi12w.jpg大井町駅付近>
 「時代屋の女房」の本の書き出しもJR京浜東北線の大井町駅から始まります。「国電大井町駅を降り、阪急百貨店を右に見て歩いてゆくと、道幅が急に広くなり風がかわる。その広い道は坂になっていて大きく右へまがっているが、のぼりきったところが大井三つ又と呼ばれる三叉路、信号の標示には大井四丁目と記されている。ここを左へゆけば大森から池上本門寺へとつづく地上通り、右へゆけば京浜第二国道へぬける商店街だ。」と書かれています。現在の大井町駅は東側には丸井、きゅりあんという大きなビルが建っていますが、先に行けば高村智恵子で有名なゼームス坂もあります。駅の西側は上記に書かれている阪急百貨店は既に閉店しており、ビルは専門店街となっています。そういえば「村上春樹を歩く」の芦屋のところで紹介しました「アンリ・シャルパンティエ」の大井町店もありますので、芦屋のおいしいお菓子が買えます。今、大井町は東京臨海高速鉄道りんかい線の工事の真最中です。できると大崎と大井町、お台場がつながり便利になります。

 左上の写真 は旧阪急百貨店の先から大井町駅方面を撮影したものです。並木道があり、なかなか雰囲気がいいです。上の地図ののところから撮影しています。

jidaiya-ooimachi13w.jpg時代屋跡>
 時代屋は大井三つ又交差点の角にあったのですが現在は建物はなく、駐車場となっています。「 三つ又に架かった長い歩道橋の一方の階段が螺旋状になっていて、降りきったところに不思議な店がある。猫の額ほどの土地に作った小さな建物は、「時代屋」という看板がなければ物置小屋といった趣きだ。粗末なサッシのガラス戸を通して中をのぞいても、どたどたとした道具の形があいまいに見えるだけ、店の中の照明にも無頓着といったふうで、道ゆく人に商売気をつたえようとするけはいがない。」と書いています。大井町の駅からは、上記に書かれている「広い道」ではなくて、手前の三つ又商店街を左に登っていくと、交差点の手前右側に三ツ又身代り地蔵「三 ツ又通り」と書いた石碑があり、なにか「時代屋」の雰囲気をかもし出しています。

右上の写真の 歩道橋の螺旋階段がある左側の駐車場(車が止まっている所)が時代屋跡です。螺旋階段も当時のままで、ここに古びた木造二階建の「時代屋」が建っていれば、と思うのは私だけでしょうか!!

jidaiya-ooimachi24w.jpg今井クリーニング店、喫茶店「サンライズ」他>
 時代屋は大井の地元の人たちの輪の中で生活していきます。まず最初が今井クリーニング店です。「踏切の警報器が鳴って列車が通りすぎ、表情をとめた今井さんの顔がこまかくふるえた。今井クリーニング店のそばにある踏切を、最近になって横須賀線が通るようになった。京浜第二国道へぬける道の途中をよこに走っている線路は、昔は軍需列車が通っていたらしい。そして、ついこのあいだまでは貨物車用だったのが、横須賀線を通すようになり、「急に大袈裟な電車なんか走らせやがって、やかましくてしょうがねえや……」今井さんは迷惑顔で文句を言っていた。そう言われてみるとかなりの震動で、今井さんの半びらきの唇から入れ歯の当り合う音がもれていた。」とあります。京浜第二国道へぬける道は大井三つ又からニコンと小野学園の間を通り、西大井駅の横の踏切を通る道なので、地図のIJ当たりです。 また、津川雅彦が喫茶店のマスターを演じた『池上通りの喫茶店「サンライズ」』や飲み屋の「トン吉はやはり混んでいて、三人がやっと割り込めたのが幸運という状態だった。」は池上通りにあったはずなのですが、なかなかぴったりするのが見当たりません。「サンライズ」は「レストラン照月(当時からあった)」、「トン吉」は「大吉(当時はなかった)」が近いかなと思います。

左上の写真の道路が光学通りで、横須賀線の踏切を大井町側から写したものです。写真の高架橋は東海道新幹線で、下を横須賀線が走っています。当時の住宅地図を見ると、写真正面の二階建ての住宅の所に「ミリオンクリーニング店」があり、踏切を超えた伊藤博文公墓の前にも「小林クリーニンク店」がありました。現在はどちらのクリーニング店もなくなっていますが、どちらかをモデルにしたものと思われます。

jidaiya-ooimachi28w.jpg<大井三つ又の歩道橋>
 渡瀬恒彦が演じる「安さん」は、「時代屋の女房(夏目雅子が演じる真弓)」がいなくなり、戻ってくるだろうと期待しつつ待ちくたびれます。「真弓がここに居ついて五年目、そのあいだに三回も家出をして、判で押したように歩道橋をながめた。すると、歩道橋の反対側に不思議な色が回転しているのが見えた。安さんはあわてて下駄を突っかけ、サッシのガラス戸を乱暴に開け放ってから、二階の階段の下までもどり、「おいアブサン、時代屋の女房が帰ってきたぜ」大声で怒鳴ってから外へ飛び出した。安さんは下駄の音をひびかせて螺旋状の階段を駈けのぼり、歩道橋の上へ躍り出た。真っ赤に空を染めた夕陽の中に、池上通りへつづく商店街と、京浜第二国道へ向う商店街が、かなり遠くまで見わたせた。その風景が目に飛び込んだとき、安さんは、この歩道橋へこれまで一度ものぼったことがなかったことに、突然、気づいたのだった。大井から池上通りへまがる三つ叉に架かった歩道橋の螺旋階段の側を降りたところ……何十回となく店の場所を人に教えるときに口走り、アブサンの通用口となっている小窓から何百回となくながめた歩道橋、そして真弓が最初にあらわれたときにわたってきた歩道橋に、安さんはこれまで一度も足をおいたことがなかったのだ。歩道橋の上からはじめて見る三つ 又の風景は、夕焼けのなかで安さんの目をしばし釘づけにした。」、真弓を迎えに、初めて登った歩道橋からの景色はどうだったのでしょう、最後に戻ってきた「時代屋の女房」でした。

右上の写真が大井三つ又の螺旋階段のある歩道橋です。正面が池上通りで、右に曲がると京浜第二国道へ向う商店街(現在の商店街は光学通り共栄会といい、この通りはニコンが西大井駅の近くにあるので光学通りと呼ばれています)、左の道路は、陸橋でJRを超えて大井町駅の東側にでます。

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【参考文献】
・ユリイカ 四月臨時増刊号(特集:萩原朔太郎):青土社

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