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最終更新日:2007年1月30日

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●直木賞受賞の「4TEEN」月島を歩く 2003年9月27日 <V01L01>

 今回は第129回直木三十五賞(2003年8月)を受賞された石田衣良の「4TEEN」を歩いてみました。東京月島の中学生達が超高層マンションと、戦災を免れた戦前の家並みが共存する古くて新しい街を自転車で駆け抜けていきます。

 今年の直木賞の選考について、オール讀物9月号から引用すると、「第129回直木三十五賞選考会は、平成14年12月から同15年5月の間に発表された諸雑誌、単行本のなかから選ばれた下記六作品を候補作として、平成15年7月17日午後5時より、東京築地の新喜楽において開かれました。今春、委員在任中に急逝された黒岩重吾委員に献杯の後、阿刀田高、五木寛之、井上ひさし、北方謙三、田辺聖子、津本陽、林真理子、平岩弓枝、宮城谷昌光、渡辺淳一の全委員出席のもと、慎重な審議がおこなわれ、右作品が受賞と決定いたしました。詳しくは各委員の選評をごらんください。」、とあります。なかなかの選考委員メンバーです。特に五木寛之の選評を読むと、「”才気と熱気”、石田衣良さんの『4TEEN フォーティーン』は、ホームランではないが、走者一掃の二塁打といった感じのライナー性のヒットである。風俗が新鮮で人情が昔風、そこがおもしろい。月島という、都会の故郷ともいうべき土地への喪失感が、失われてゆく十代への感傷と重なって、いい感じだ。私は学生時代に月島で新聞配達をして働いていたことがあるので、ふと感傷をそそられるものがあった。採点が少し甘くなったのは、そのせいだろう。いずれにせよ、才気が才能に実っていくにちがいない作家だと思う。」、ホームランバッターは一発屋ですから、三割アベレージバッターのほうが読む方は期待する機会が多くていいですね。さすがの五木寛之です。五木寛之が月島で業界紙の配達をしていたころの話も掲載する予定ですので御期待ください。

左の写真は新潮社版の初版本4TEENです。今年の5月が初版です。今買うと版数は上がってしまっていますので、初版本を買うには、どの作家が次の芥川賞か、直木賞か見定めるのがたいへんです。

マクドナルド月島駅前店>
 「4TEEN」の中で最初にでてくるお店は中学生らしくマクドナルド月島駅前店です。「始まりは春休みにはいったばかりの月曜日。ぼくは月島駅の階段をのぼったところにあるマクドナルドのまえにいた。もんじゃ焼きの店が百軒はある西仲通りのほうの出口だ。マウンテンバイクにのったまま片足をガードレールにかけたり、ときどきはその足もはずしてスタンディングスティルの練習をしたりしながら、クラスの友達を待っていた。……ぼくたちのうしろで自動ドアが開いた。「よう、待った」ダイの太った声がする。胸のまえにあだ名の元になったフレンチフライをもってマックをでてきた。ダイは大輔のダイじゃなくて、フレンチフライの大中小のダイ。揚げ油の臭い。むりやり締めたベルトの上下から、ポテトでいっぱいの中身がこぼれそうだった。…」、月島周辺にはマクドナルドは此処一軒で、大江戸線月島駅の出口近くといえばここしかありません。マウンテンバイクに乗って足を掛けたガードレールは写真の左端で、ダイが出ていたマックの自動ドアは正面になるのですが、フレンチフライではなくて、マックフライポテトです。改版で直っているかな!!

左上の写真がマクドナルド月島駅前店です。月島駅周辺のコンビニについても「4TEEN」の中でかなり詳細に書かれています。「…「早くサンクスまでいこうぜ。おれ、もう溶けちゃうよ」……エスカレーターのあるほうの月島駅の出口に、まだ新しいコンビニがあるのだ。ソフトクリームとかき氷がうまくて、大通りぎわなので、幅の広い歩道と木かげが店のまえにあって、ぼくたちのいつものたまり場になっていた。貧弱なヶヤキの木のしたで歩道にじかに座り、冷たいものをのみながら、都心のほうから隅田川をわたってくる熱風に全身を吹かれる。あとはどこかの私立中学の制服を着た美少女がとおりすぎるかジュンの切れのいい冗談でもあれば、夏休みの午後はパーフェクトだった。」…」。やっぱり中学生はマックとコンビニと○×座りです。大江戸線月島駅の交差点近くには「サンクス」が二店舗(一店目二店目)あります。「4TEEN」の中には二店舗とも書かれています。下記の地図を参照して下さい

月島図書館>
 月島図書館もしばしば実名で登場します。「…つぎの日の午後、三人で月島図書館に集まった。児童室の手前にある検索用のコンピュータを操作したのはジュン。ぼくとダイは肩越しにモニタに浮かぶ緑の文字を見ていた。ここのコンピュータは旧式なんだ。…」、月島図書館は月島区民センターのビルの中になあり、三階が図書館になっていました。上記に書かれている検索用コンピュータもおかれていました。

右の写真が月島区民センターです。中央区の出張所も同じビルのなかにあります。

月島中学(晴海中学校)>
 マウンテンバイクに乗った中学達たちが通っている中学が月島中学です。「…ぼくたち二年生の教室は三階にあった。月島中学の校舎は四階建てだ。ユズルは黒いマントをなびかせながら、廊下を走っていった。目指しているのは校舎の両端にある階段のようだった。…五月なかばの火曜日、ぼくほ授業を終えて月中の正門をでた。いつものようにジュンとダイとナオトといっしょだ。門ほガウディが好きな建築家が設計したらしく、ボディビルダーの筋肉のようにうねうねと立体的に盛りあがる気もちの悪いデザイン。なめらかなコンクリートの表には生徒が思いおもいの絵を描いた陶器のプレートが埋めこまれている。花や動物やコンピュータゲームなんかのくだらない絵がたくさん。…」。残念ながら月島中学は実在しません。多分!たぶん!晴海中学校がモデルだとおもいますが、建物も6階もあり(建て直した?)上記に書かれたガウデイが設計した様な門はありませんでした。すこし残念です。

左上の写真が晴海中学校です。この道をすこし歩くと朝汐運河にかかる朝潮橋となり、そのまま歩くと清澄通りです。「…ぼくたちは清澄通りをわたり、ぶらぶらとヤナギの木陰を西仲通りにむかった。昼間からもんじゃ焼きのにおいがする歩道で ……、」、となります。朝潮橋の先には聖路加病院のセントルークスタワーが見えます。

西仲通り>
 月島といえば、”佃煮”と”もんじゃ屋さん”で、ものすごく有名です。「…ナオトはさっと手をあげて、西仲通りを右手に曲がっていく。アーケードにほさまれた狭い空の先に、超高層マンションが未来の天守閣みたいにそびえていた。ダイは無言でもんじゃ焼きともんじゃ焼きのあいだの路地に消えていく。軽自動車もほいれない湿った路地の奥には、地上げで半分無人になった長屋がまだいくつも残っている。もんじゃの煙にさらされて窓が油紙のように変色したダイの家も、そのうちのひとつだった。この十年ばかり月島では巨大なもんじゃバブルが発生して、百軒を超える店がのれんをだしていた。あんなものをたべに東京中から人が集まるなんて、ぼくは不思議だ。小学校の帰りに五十円玉ひとつでたべられる子どものおやつだったのに。…」。月島もんじゃ振興会協同組合の「月島周辺もんじゃ屋さんのご案内」によると、月島には65軒のもんじゃ屋があるそうです。昔は上記に書かれているように、子供のおやつで本当に安く食べられたそうです。

右の写真が月島西仲通りです。こちらも上記に書かれている通り、西仲通りの先に超高層マンションがみえます。

<もんじゃ屋さん(たんぽぽ)>
 
私が好きなもんじゃ屋さんを紹介します。昔からのお店かどうかはよくわかりませんが、お店の雰囲気がなかなかよくて、味もなかなかで、”Wなかなか”です。すこし値段は高いかなとおもいますが、”たんぽぽスペシャルもんじゃ”で1100円でした。たんぽぽスペシャルもんじゃの写真も載せておきます。


超高層マンション(スカイライトタワー、リバーシティ21)>
 「赤い自転車は佃島の古い家並みをすぎて、泥水のようによどんだ掘割を越え、佃公園にはいっていく。いつものぼくたちのミ−ティング場所だ。堤防のうえからは隅田川をいききする平底船や小型タンカーが見えた。ナオトが不思議そうにいった。「ジュン、どこにいくつもりなんだろうな」深緑の葉をびっしりとしげらせるソメイヨシノのうえには、リバーシティ21の高層ビルが何本も建っていた。このくらいまで近くにくると、最上階を見るためには首が痛くなるほど空を見あげなくてはならない。五十階以上の高さがある建物は、人がつくったものというよりは、歴史の始まるまえからそこにあったという雰囲気だ。夏の暑さなど無関係に、ガラスとアルミニウムとコンクリートの固まりが、隅田川と晴海運河を分けてそびえている。ジュンはスカイライトタワーの手まえで自転車をおりると、公園の手すりにチェーンでしっかりとつないだ。この街でさえ、いい自転車はよく狙われるのだ。ぼくたちは植えこみのかげからジュンを見ていた。……リバーシティにあるちょつと高級なコンビニで、缶ジュースとマンガ雑誌を買ってきて、ロビーの隅に場所をとった。…」。本当に月島の街に超高層マンションが似合っているかはよく分かりませんというか、会っていないようにもおもいます。月島に高級なコンビニはどうかなともおもいます。佃公園の写真も掲載しておきます。

左の写真の左側のタワーがスカイライトタワー、右側がリバーシティ21です。本当に月島のどの路地からも超高層マンションが見えますね。不思議な町並みです。

<4TEEN月島地図>




【参考文献】
・オール讀物 2003年9月号:文藝春秋社
・4TEEN:新潮社、石田衣良

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