<川っぶちの黒い小さな家跡> 安吾が伊東市で最後に住んだのが音無川の川っぷちの黒い小さな家です。「クラクラ日記」では「彼に提案して、今度は一戸建ちの家にひっ越しをすることに決めた。松川の上流は同じ川なのだが音無川といって、その川っぶちに小さな四間ほどの家を見つけた。……もう一つ私の家の欠点は、玄関のまえに、四、五段のコンクリートの階段があることだった。都会では思い掛けないことだが、地方で暮すと買物はどうしても繁華な街まで出向かなければならないのと、この家に移ってから犬を飼い始めたのが理由で、一日最低三回ぐらいは自転車に乗らなければならなかった。自転車の出し入れに、この階段はひどく邪魔で、自転車を抱えてこの階段を上がったり降りたりが非力の私には出来なかった。」と書いています。安吾も昭和26年5月の別冊文聾春秋のなかで、この家のことを書いています。「大旅館と別荘でもつ町の中で、小さくてみすばらしいから目立った。ちょっとした小イキな別荘ぐらいでは、どの山、どの川沿いを見渡してもザラであるから、目立たないが、私のうちは目立つね。駅から自動車で帰ると、運転手はたいがい隣りの立派な別荘の前で車をとめる。『もう一軒向うだよ』と云わなければならないのである。」、そうとう品粗な家だったようです。
★右の写真の当りが坂口安吾が住んでいた「川っぷちの黒い小さな家」があったところです。現在は坂口三千代さんが昇り降りに苦労した階段が無くなっていますが、隣のアパートには、昔のままの階段がありました。 |